
目覚まし時計のアラームは融通がきかない。
日によって気を利かせて鳴らなかったりするならもっと仲良くなれると思うのだが、今のところそんなことは一度きりしかなかった。
ちなみに原因は電池切れ。彼との付き合いの短さが露呈する回数だ。
あんまりにも融通がきかないので、最近では一度殴ることで沈黙させている。
暴力はあまり好ましくないが、言うだけで分からない奴には殴ってきかせるしかない。ときにはそういう場合もある。
女を殴ったと考えるのは寝覚めが悪いので、目覚まし時計を脳内で擬人化するときは男だということにしている。
「なおと」という名前もつけた。たまに話しかける。
「よう、なおと。俺、また女子に笑われちゃったよ……」
思い出すだけでせつない過去だった。
「元気出せよ相棒、らしくないぜ。あんたはいつも笑ってるべきさ。あんたが悲しい顔をしてると、どこかで誰かが悲しくなるだろう?」
彼はその神経質な性格が垣間見える説教で俺を励ました。
最近では何か嫌なことがあれば彼に愚痴を言う。最初の頃は頭がどうかしたのかと心配そうにしていた妹も、今ではかまってくれなくなった。
「ああ、またおかしくなったのか」とあっさり認めてくれる。理解のある家族で非常に助かる。
なんだろうこれ
すごく期待
この頃はあまりに擬人化妄想がリアルになり、人間だったらどんな顔をしているか、どんな姿をしているかまで具体的に想像するようになってしまった。
おかげで、部屋に女子を連れ込んだとき、なおとがいるせいで上手くアンナコトができないのではないかといらぬ心配までするようになる始末。
もしも女子の前でなおとに話しかけでもしたなら目も当てられない。
「あいつ目覚ましに話かけてたんだけどー」
「えーなにそれまじうけるー」
「ありえねー。やべー」
「ひくわー。あいつマジないわー。ないわー」
「ていうかあいつ童貞でしょー?」
「だよねー。目覚ましに話しかけるなんて絶対童貞だよねー」
「童貞マジうけるわー」
となること請け合い。
脳内でエコーのかかった幻聴が響き終わると、全身にぞくぞくと寒気が走った。
脳内教室にクラスメイトたちの童貞コールがこだまする。超怖い。
なので近頃は、本格的になおとと決別するべきか、真剣に悩んでいた。
ぶっちゃけ俺が部屋に女子を連れ込むなんて天地が逆さになってもありえないのだが。
なおとのことを考えているうちに、さっきまで見ていた夢の内容を忘れてしまった。
忘れてしまったのだが、なぜかえろい夢だったことは思い出せる。
なんかすごくえろい夢だった。
具体的に言うなら……。
武道場の女子更衣室で剣道部女子が着替えをしているところを覗いていたら、あっさり見つかって、
女子が脱いだばかりの服で全身を縛られたうえ仰向けに押し倒され、
顔見知りの剣道部員三名(容姿ランクB+,A,B)に全身を嘗め回されながら罵倒され、
あられもない姿の三人に男としての尊厳をこれでもかというほどに踏みにじられ、
最終的にはその三名に学生生活の影でこっそりとえっちなことをしてもらうセフレ的な地位になるような夢だったはずなのだが――
――ぶっちゃけ細かいことは覚えてない。
なんか感覚とかすごくリアルだった。
童貞なので、本番の想像をしようとしたら夢が覚めた……のかも知れない。覚えてない。
えろい夢に関しては覚えてないのが悔しい。覚えてたら何かに使えるかもしれないのに。
とはいえ、今重要なのはいろいろ持て余してしまって屹立している下半身であり。
さらにいえば、目覚ましが鳴る時間を過ぎても起きてこない兄の様子を見に来た健気な妹のことでもあった。
季節は夏。
寝相が悪いと、タオルはすぐ落ちる。
薄着だから、いろいろ見られる。
察される。
お約束だった。